うつ病で引きこもり専業主夫の日々・育児ブログ

うつ病とアルコール依存症をわずらった無職、専業主夫のつらい父さんがイクメンになろうと家事や子どもの育児子育てに奮闘する 。闘病記・体験談あり

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三つ巴の#「迷い」と「決断」

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会社

今日は、社内がガヤガヤしていた。


いつもガヤガヤしているのだが、今日は特別にガヤガヤしていた。

40人くらいの紺色や黒いスーツを着た野郎どもがざわついていた。

 

「今日だろ、新人が来るの」

 

「の、ハズだがな」

 

20人は居る女性陣は、特に関心もなさそうに、パソコンのキーボードを打っていた。

 

今年は、男子2人、女子3人が新入社員として採られた。

2カ月の研修を終え、本日、各部署に配属されるはずなのだ。

 

「松本響子だっけ、あの可愛いの」

 

「そう、確かそんな名前」

 

「あれがうちの課にくるとええの」

 

紺色や黒はそんな話ばかりしていた。

●徳井純一

ぼくは徳井純一、32歳。


このIT関係の会社に勤めている。

特に自慢する所もない、平凡な人生を送ってきた。


一流とは言えない大学をなんとか卒業し、一流とは言えない会社になんとか就職できた。

しかし、ひたむきに仕事に打ち込んできたせいか職種が合っていたためか、おかげで若いうちにマネージャーの職につけた。

部下を数人引き連れて顧客の望むシステムを作り上げる、そんな仕事だ。

 

仕事ばかりしていたせいか、よい女性に巡り会う機会がなく、いまだに独身だ。

 

身長180センチ、やせ型、髪はショートで小ざっぱり、顔そのものも悪くはないと思う。

 

別に女性を避けているわけではない。

が、神様の意地悪か、理想の女性にどうも巡り会うことができない。


1人、後輩で気になる女性がいなくもない。

女性として意識しなくもない。

しかし今のところ、単なる仕事上のパートナーとしての関係だけだ。

彼女は仕事では優秀なので、その関係は壊したくない。

  

後輩の女性

フリーフォトPAKUTASOより引用

 

結婚そのものは、したいと思わなくもないが、ひとり自由気ままな生活に慣れきってしまったせいか、いささかおっくうである。

 

今日は朝一からミーティングの日。

2カ月の研修を終えた新入社員が帰ってくる。

ぼくのチームに1人配属されるという話は聞いている。


ちょうど、部長がこちらにやってきた。


後ろに隠れるように、女の子がついてきた。

 

流行りに鈍感なのか、時代に似合わない明るいグレーのスーツ姿で、髪の毛もおおよそグレーの部長が、そばまで来て言った。

 

「こちらが君の配属されるチームのリーダー、徳井君だ。

徳井君、彼女は研修では優秀だったそうだ。

まあ、お手柔らかによろしく」

 

そう言ってグレーは去って行った。

 

松本響子と申します。よろしくお願いしますぅ」

 

彼女は深々と頭を下げた。まだリクルートの癖は抜けてないらしい。

 

そうだった、響子ちゃんだ。

 

入社式での挨拶を思い出した。

 

そんな名前の管理人さんがいるアパートの漫画があったな、と思った。

 

「いいよ、社内でそんなに下げなくても。

 それより、今からミーティングなんでね。

 顔見せに出てくれないかな。

 そこの空いてる席に荷物置いておいて」

 

そしてぼくは「自分の島」の人たちに、ミーティングを始める旨を伝え、松本響子と会議室に出向いた。

 

新入社員

フリーフォトPAKUTASOより引用

 

羨望とがっかりが混じったような表情の、紺色や黒のスーツが横目に入った。

〇木村佳恵(よしえ)

私は木村佳恵、28歳。


新人の頃からずっと、徳井先輩と仕事をしてきた。

 

今日はミーティングの日。


徳井さんの唯一の欠点は、ミーティングが多いこと。

週に何回も、ほんと面倒くさいのよね。


ん、徳井さんと、あれは・・・・・・新人ちゃんか。


なんか男好きのする顔ね、嫌な感じ。

 

背は低いけど、胸があるわ。

 

化粧っけがないのは良しとしよう。

 

ちゃんと仕事についてこれるかな。

 

挨拶だけ聞いてみようか。

 

◇松本響子

会議室に入った。

 

10人程度が黒色のテーブルを囲めるように、イスが並べてあった。

 

背中側にホワイトボードがある。

 

緊張するな。

 

ぞろぞろと紺色や黒のスーツも入ってきた。


徳井マネージャーと、6・・・・・・7・・・・・・8人か。

 

女の人が1人。

 

少ないけれど、女性がいるだけでちょっとホッとする。

 

「おはようございます」

 

と徳井先輩が言うと

 

「・・・はようございます」

 

だらけた声が皆から帰ってきた。

 

「ミーティングの前に少し。

 今日からプロジェクトに参加する、

 新人の松本響子さんだ。よろしく」

 

では、という風に手をふられたので、挨拶を始めた。

紺色の何人かがにやけてるのが目に入った。

 

「松本響子と申します。22歳ですぅ。

 なにもかも初めてで足手まといになるかもですが、

 よろしくお願いいたしますぅ」

 

また、深々とお辞儀した。

 

誰かが口笛をふいた。

 

下を向いていたので誰かはわからない。

 

徳井先輩は注意しようとする顔つきだったが、誰の仕業かわからずにいた。

ミーティングの内容は、各人の報告会みたいな感じだった。

30分を過ぎたころ、解散になった。

●徳井純一

「響子ちゃん、机の上のノートパソコン使ってね。

 初期化してあるから」

と言って、ふと気がついた。


初期化してあるので開発用アプリケーションがすべて消えている。

 

「これだけインストールしなきゃいけないんだけど・・・・・・

 わかる?」

と言いながら、4つのパッケージをロッカーから取り出した。

 

「よくわかりません」

 

「だろうね。じゃ、一緒にインストールしようか。

 これがインストール手引き書」

ぼくはオフィス用のコロ付き椅子を響子ちゃんの机の右側によせて、説明しながらインストールを始めた。

 

ぼくはCD-ROMをセットして、手引書通りに次々と進めていく。

 

オフィスデスクに2人並んで座っているので、彼女との距離はパーソナルスペースである15センチも離れていない。


ノート左側のCD-ROMを出し入れする時、左のヒジが彼女の右ヒジにあたる。

 

驚いて、ぼくも彼女も手を引っ込めた。

 

だが4つ目のCD-ROMの時は、手を引っ込めなかった。

 

ぼくは無意識に、響子ちゃんを意識し始めた。

〇木村佳恵

目の前で何やってるの、2人とも。

徳井先輩もなんだかにやついて、だらしない。

いい年して新入社員にデレデレしてるんじゃないわよ。

なんかムカツク。

 

ちょっと言ってみようか。

 

「徳井先輩、インストールなら誰でもできるんで。

 代わりましょうか?」

少しトゲがある言い方をしてみた。

 

「いや、いいよ、自分の仕事して」

なんか余計にムカツいた。

 

私の時は他の人にインストールさせたくせに。

 

左隣の紺色スーツから、1枚の紙切れが回ってきた。

「松本響子さん歓迎会のお知らせ 〇月〇日

 19:00~ 〇〇屋 男性4000円 女性3000円」

のような内容だった。

 

なんだか出席する気になれなかった。

でも、徳井先輩が新人に何されるかわかったもんじゃない。

「出席」にマルを付けた。

●徳井純一

なんだか久しぶりにドキドキした。

 

あの娘、可愛いし、いいかもしれない。

 

ちょっと年が離れてるが。

 

佳恵さんも悪くはないが、仕事の鬼だからな。

 

何かあっても仕事を優先するだろうな。

〇木村佳恵

ちょっと。

なに毎日ベタベタしてるのかな。

ちょっと出の新人のくせに。

 

生意気じゃない?

 

だいたい、あの、語尾を伸ばした喋り方が気に入らない。

女子大生じゃないっての。

 

こっちは徳井先輩と6年も仕事してるんだから。

こっちのほうが親しいんだから。

何かあっても止める。

●徳井純一

今日は歓迎会の日だったな。


プロジェクトメンバー、8人全員出席か。

いつもは誰か欠席するが。

響子ちゃん効果か。

 

それだけ仕事もしてくれればいいんだが。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「よし、6時過ぎた。今日は定時上がりで行くぞ」

待ってましたとばかりに、紺色のスーツたちはパソコンをシャットダウンし、あるいはフタを閉め、机の書類を片付けて立ち上がった。

 

中型タクシー2台を拾って店まで移動した。

 

飲み屋は、和風居酒屋という感じだった。

22歳の女の子の歓迎会なのだから、もうちっとオシャレな店はなかったのかと思ったが、幹事を部下にまかせたのが悪かった。

 

「ふうん、初めて来ましたぁ、こういう店」

 

響子ちゃんもそういってる。

 

来てしまったものはしかたがない。

 

ぼくはわりとおせっかい焼き、というか、部下の飲み物がなかったらぼくが注文してあげるくらいなので、掘りごたつ式座敷の入口側に席をとった。

◇松本響子

大学の卒業パーティ以来の飲み会だ。

また緊張してきた。

 

「みんな奥に座ってる。

 若手は下座にすわらなきゃ」

 

入ってすぐの入口付近に座った。

 

紺色スーツの1人が

おーい、主人公はお誕生日席に座れよ!

と叫んでいたが。

いえ、ここで十分ですぅ

と席は変わらなかった。

〇木村佳恵

2台目のタクシーは着くのが遅くなった。

 

でも、席は早く取らないと。

 

私は徳井先輩のクセを知っている。

皆の注文を取るため、必ず入口付近に座る。

 

その辺に座ろうと思ったんだけど、もう埋まっていた。

徳井先輩の対面になってしまった。

●徳井純一

「みんな『生』でいい?」

注文を取ろうとした時、ふと気がついた。

ぼくの隣に響子ちゃんが座っている。

 

「響子ちゃんは主人公なんだから真ん中にすわらなきゃ」

と、テーブルの向こうを指さしたが、紺色スーツの野郎達で埋まっていた。

 

仕方なく

「とりあえず、みんな『生』でいい?」

誰も意義を唱えなかったので、生を8つ注文した。

 

食べ物は、和食のコース料理が出てくるらしい。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

響子ちゃんは、酒がいけるたちのようだ。

 

小柄なのに、ぼくとそう変わらないペースで飲んでいる。

 

仕事の話を色々聞いてくるので、

「今日は仕事の話は無しで」

となだめ、大学のサークルの話などで盛り上げた。

 

生を5杯飲んだあと、日本酒になった。

 

日本酒を何本か飲んだ後、響子ちゃんは

「なんか酔っちゃったかな・・・・・・」

と言った。

 

自分で「酔った」という人間は、まだ酔っていないと聞いたことがある。

 

が、こちらは本当に酔ってきた。

 

女性なら誰でもいい、触れ合いたい気持ちになってきた。


彼女がいないことの副作用が出てきた。

 

響子ちゃんとは、なんとなくいい雰囲気になってきた。


テーブルの下で、そっと左手を差し出してみた。

◇松本響子

なんかもう酔っぱらったぁ・・・・・・

 

少しペースを落とさないと。

 

あれ、何?

 

徳井さんの手?

 

手を握ろうってことかしらぁ?

 

いいよ。

●徳井純一

響子ちゃんが握り返してきた。

 

そして少し寄ってきた。

 

本当に酔っているのか?

 

脈アリなのか?

 

わからない。


「熱燗もう1本ください」

手を握ったまま注文した。

 

残っていたお銚子を片手で手酌した。

 

右にいた後輩が「いやいや自分が」と注ごうとしたが、「いい」と手酌を押し通した。

 

左手は離したくなかった。

〇木村佳恵

なにあれ。

何2人で寄ってるの。

あれじゃカップルじゃない。

 

すっごいムカツクんだけど。

すっごい腹立つんだけど。

 

徳井のバカもデレデレしてんじゃないよ。

ほんとにバカ。

◇松本響子

「もう帰ろうかなぁ」

ラストオーダーの後、言ってみた。

 

「そうなの、2次会はムリなの?」

徳井さんが聞いてきた。

 

「ちょっと日本酒飲み過ぎたぁ。てへ」

 

「じゃあさ、送るよ」

徳井先輩は、無造作に財布から1万円札を出して幹事に渡した後、2人でのれんをくぐり店を出た。

 

「大丈夫ですよ、ひとりで帰れますからぁ」

という足取りが、少しふらついた。

 

「いいよ、送るよ、危ないし」

徳井さんは強引にタクシーを取り乗り込んできた。

 

「〇〇町の〇〇マンションに」

 

「どうして知ってるんですか?」

 

「そりゃ、履歴書見るし、うちに近いから」

マンションに着くと、徳井先輩はエレベーターまで送ってくれた。

 

というより、エレベーターに乗ってきた。

「何号室、までは覚えてない」

 

「ここですよぉ」

701号室の前で立ち止まり、鍵を開けた。

 

「お茶かなにか飲んでいきます?」

●徳井純一

しまった、手を握って興奮してしまった。

 

彼女の部屋まで来てしまった。

 

これでは送り狼だ。

 

「お茶でも?」


と誘われたが、社交辞令なのか、本当に誘われたのかわからない。

 

酔いが醒めてきたので、酒が飲みたい。

 

「ビールある?」

と聞いたら、冷えてないのがあると。

 

ぼくはぬるいビールをちびちびやりながら、部屋を観察した。


物はあまりない。

あまりないから散らかってない。

白で統一されたリビングも台所も、綺麗に掃除してある。

 

男っ気は感じないが、生活感もあまりない。

 

響子ちゃんは、冷蔵庫を開けてビールを詰め込もうとしていた。

 

ぼくは思わず愛しくなり、背中から手をまわし、抱きしめた。

 

彼女は嫌がるそぶりをみせなかった。

 

もっと強く抱きしめた。

 

彼女の頭はぼくの胸の位置にあった。

 

髪の毛からいい香りがしてくる。

 

上から顔を近づけ、右手で彼女のあごをあげ、唇を重ねた。

 

足をすくい上げるように抱き上げたが、そういえばベッドの位置を知らないことに気がついた。

 

「あっちー」

 

と彼女は指差し、そこへ2人は倒れ込んだ。

 


朝には、「響子」「純一さん」と呼び合う仲になっていた。

〇木村佳恵

ざけんな!

 

2人で出て行って帰って来ないなんてある?

 

社内でソレ、あり得る?

 

普通、タクシーまで送ったら戻ってくるっしょ。

 

信じられないけど、家まで行ったとか?

 

なんか徳井先輩、昨日と同じネクタイじゃね?

 

まさか・・・・・・ないよね、そんなこと。

 

新人だし、社内だし。

 

たまたまよね。

 

もし、うちが誘ったらどうするんだろう。

 

徳井先輩の席まで行き、小さな声で言った。

「あのう、徳井先輩。

 今晩空いてませんか?

 仕事のことでちょっと話があるんですけど」

 

「ん? 今晩? 

 うーん、ちょっと疲れてるんだけど。

 メシくらいならいいけど・・・・・・」

 

うん。

 

強引だけどいい。

 

店を予約しておこう。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

小さなフランス料理の店に来た。


小さなテーブルに向かい合って座る。

 

「えらくオシャレな店だな。

 まるでデートみたいだな。

 なんでこんな店知ってるの?」

 

と、仕事を早く切り上げた徳井先輩が言った。

そりゃ半分デートのつもりだもの。

 

「で、仕事の話ってなに?」

 

「いきなりそれですか?

 もうちょっと雰囲気を楽しんだらいかがかしら?」

 

「まるで彼女の言うセリフだな」

 

といいながらも、ソムリエが来るとワイン選びに夢中になっていた。

ソムリエが注ぐワインの量が物足らないらしく、後から自分で注ぎ足していた。

 

美食をたいらげながら、ワイン好きな2人は赤2本、白2本と4本目を空けようとしていた。

●純一

今日の佳恵さんはどうかしている。


何かいつもと違う気がする。

 

昨日の事、何か感づいたのか。


2人で店を出たのはまずかったかな。

 

佳恵さんとは、これまでこんなオシャレな店に来たことがない。

いつもは居酒屋ばかりだ。


仕事の話というが、どうも違う気がする。

 

ワインも料理も美味しいが、もう4本も空だ。


さすがに酔ってきた。

 

ワイングラスを置いて、テーブルの上で両手を組んだ。


そういえば、仕事の話ってなんだっけ。


酔っぱらって思考がうまくまとまらないでいると、組んだ手の上に、佳恵さんが手を重ねてきた。

 

え、それは。

 

彼女流のスキンシップ・・・・・・かな。

 

そういう店だから不自然ではない。


重ねてきた佳恵さんの手を右手で握りなおした。


左手でワイングラスを持てるように。

 

佳恵さんのことは、嫌いではない。

鼻筋が通った整った顔立ちでストレートの長い髪。

いや、どちらかというと好きだ。

口説こうと思ったこともある。

 

だが、どうしても仕事のパートナーという目で見てしまう。

 

この関係を壊すと、一線を超えるといけないような気がする。

 

・・・・・・今晩は、なぜか佳恵さんのほうが積極的だ。

 

今晩だけ、一回きりというのはいけないのだろうか。

〇佳恵

お会計はワリカンで、店を出た。

 

長い時間、手を繋ぎっぱなしだった彼は、店を出るとすぐに肩を組んできた。

うちは彼に寄り掛かった。

そして上を向いて、つま先立ちになり、背が高い彼の唇を奪った。


国道でタクシーをひろった。


向かう先は、もちろんウチ。

 

徳井先輩はもうその気になっている。

 

マンションの階段を2階に上がり、玄関を開けた。

 

いきなり後ろから抱きしめられた。

 

「ちょっとまって、慌てないで。

 先にシャワー浴びさせて」


熱いお湯で汗を洗い流していると、急にドアが開いた。

 

まだ脂がまったくついていない、上半身裸の彼が入ってきた。

 

濡れるのもお構いなしで、唇を重ねた。

 

シャワーを止めると、そのままバスタオルにくるまれて、ベッドに向かった。

●純一の迷いと決断

いつもより30分早い目覚まし時計で、目が覚めた。

酔いもさめていた。


目覚まし時計の音が違い、部屋の天井も違うため、昨晩の出来事を思い出した。

 

酔いが醒めたからか、後悔の念が急激に沸き上がった。

 

しまった。

 

一線を越えてしまった。

 

しかも、一度に2人も一線を越えてしまった。


そんなつもりはなかったのに、酔っていたからか。


どちらかにすべきだった。

 

佳恵は佳恵で昔から好きだ。

 

響子は響子でかわいい。

 

そしてどちらも身体を許してくれた。

 

迷う。

 

どちらかに決めないといけないことはわかる。


そして、どちらかに決めないと大変なことになる・・・・・・

 

すぐには決断できなかった。

 

いつも通り会社には出社した。


佳恵とは時間をずらして家を出た。


3日目の同じネクタイだ。

 


「今日はウチにこないの?」

響子から、先日IDを教えてもらったラインが来た。

 

「すこし遅くなってもいい?」

返事を返した。

 

仕事は溜まってるし、いい加減、シャツとネクタイを変えなければ。


ぼくは少々残業し、家に帰って着替え、響子の家に行った。


一晩過ごし、次の日出社すると

 

「今日はヒマじゃない?」

と、佳恵からラインが来た。

 

「すこし遅くなる」

と、また家に帰って着替えて佳恵の家に向かった。

 

完全に2重の半同棲生活だ。

 

いつかバレる。

 

いつか破綻する。

 

だが、未だに迷い、決断できないまま、数週間が過ぎていった。

〇佳恵の迷いと決断

奪い取ったわ。


そう、松本響子から、彼を。

 

あんな世間知らずで顔が可愛いだけが取り柄のお子ちゃまに、純一を取られてなるもんですか。


このまま半同棲から、結婚してもいいかな。


仕事は、どうしようかな。


会社の給料じゃ、共働きでないと厳しいし。


別口で働くか、居残るか。

 

ちょっと迷う。

 

考えどころ。

 

そういえば、生理が来てない・・・・・・

おかしい、一週間も遅れている。


そんなことはなかったのに。

ちょっと薬局に行こう。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

トイレに行った。

 

陽性だった。

 

当たり!

 

これで晴れてデキ婚ね。

 

佳恵は決断した。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

次の日、出社して、いつものようにプログラミングに励んでいた。

 

昼休みに、松本響子から呼び出された。

「木村先輩、すみません。

 相談できる女性が木村さんしかいなくて」

 

友達いないのか?と思った。

 

それより、響子は、何か恐れおののいた表情をしていた。

 

かなり困っている、そういうふうに取れた。

 

「実は、徳井さんの事なんですけど」

 

は。

 

純一がどうかしたの。


佳恵は身構えた。

 

「徳井さんと付き合ってるうちに」

 

え?

 

付き合ってる?

 

なにかの聞き間違い?

 

「実は、赤ちゃんができたみたいで。

 結婚するか、仕事をどうするか。

 いろいろ迷ってるんです・・・・・・」

 

鼓動が激しくなってきた。


足が震えはじめた。

 

額や首筋に汗が噴き出してくるのがわかった。


目の前が白くなってきた。

 

嘘でしょう?

 

冗談って言って。

 

「ちょっと待って。外にきて」

 

松本響子と共にビルの外の喫煙所に向かった。


足がガクガク震えてまともに歩けなかった。


そして、そこらでタバコを吸ってる紺色スーツから、1本とライターを拝借した。

 

震える手で火をつけ、深々と吸い込んだ。


学生以来、何年振りかのタバコだった。

 

くらくらした。


泣きたくなったが、年上のプライドがそれを許さなかった。

 

吸い終わると、一呼吸おいて、腹をくくった。

そして言った。

「そうなの。ふうん。

 実はね、うちも純一の赤ちゃんを妊娠して。

 どうするか迷ってたところなの」

 

「え! どういうことですか?」

響子は語尾を伸ばさなかった。

 

「だから、うちも純一の赤ちゃんを妊娠してるってこと」

 

響子の顔から、みるみる血の気が失せ、色白の肌がさらに白くなっていった。

 

白を超えて青くなっていった。

 

「どうして・・・・・・本当なんですか?」

 

「本当」

 

響子は次の言葉が思いつかないようだった。

◇響子の迷いと決断

木村先輩から衝撃的な言葉が発せられた。

「実はうちも純一の赤ちゃんを妊娠して、

 どうするか迷ってるところなの」

 

どうして・・・・・・?

 

どうして木村先輩が妊娠?


徳井さんは、木村先輩とも?

 

うちは会社に入って10年くらい働いて、結婚して主婦になるという計画が、少し早まっただけ。


そう思っていた。


早く主婦業におさまってもいいかな、最近はそう考えていた。


そして可愛い赤ちゃんを育てながらパートの仕事をする。


そんな人生でもいいかな。


そう考えていた。

 

それが、どういうこと?

 

うちの計画が、この女のせいで、すべて崩れ去った。


私のすべてが崩壊した・・・・・・

 

「失礼します」

そう言って、足早に走り去った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

午後からは、客先での打ち合わせだ。

 

純一と木村先輩が行くので、ついてこいと言われている。

 

社用車の予約は新人の仕事だ。

いくつかある車のキーと、予約表を見ながら、私は迷った。

 

いくつかのキーを手に取っては戻し、手に取っては戻し、迷った。

 

そして決断した。

 

いちばん大きなキーを手に取って、予約表に名前を書き込んだ。

●純一

1時になった。

そろそろ客先へ出なければ。

 

ノートといくつかの資料をビジネス・バッグにつっこみ、佳恵と響子に声をかけた。

 

「車を表にまわしてきます」

響子はそういって、先に駐車場へ向かった。

 

ぼくと佳恵は、会社の玄関まで行き、響子を待った。


すぐに車がまわされ、ぼくたちの前に止まった。

 

「あれ、いつもの軽自動車じゃないの?」

と問うと、

「軽は予約でいっぱいでしたので、この車で」

 

車は、上層部が乗る排気量3リッターの大型車だった。


いつもはぼくが運転するのだが。

 

「いいです、私が運転します」

と、響子はなぜか譲らない。

 

しかたがないので運転は響子にまかせ、ぼくは助手席に、佳恵は後部座席にのった。

 

会社の前は国道である。


会社を出て、左側にすすむ。

 

ふいに、車が急加速し、身体がシートに押し付けられた。


資料を見返していたぼくは、それどころじゃなくなった。


右を見ると、運転席の響子の顔はこわばり、視線は遠くまっすぐ先にあった。


そしてハンドルにしがみつくような姿勢だった。

 

3リットルの排気量は、車をあっという間に加速させた。
横目でスピードメーターを見ると、80キロ、100キロ、120キロ・・・・・・

 

「おいおい、いくら急いでるからって、そんなには!」

響子はぼくが言うことに耳をかさなかった。

 

140キロ、150キロ・・・・・・

 

「これは何かおかしい!」

 

そう感じたぼくは、サイドブレーキを引っ張ろうとした。

しかしいつもの軽にはあるサイドブレーキが見当たらない。


3リットルの高級車は、サイドブレーキが足踏み式になっていた。


響子はアクセルをベタ踏みしているらしい。

 

おい、響子!やめろ!死ぬぞ!

 

時速150キロ超では怖くてハンドルに触れられない。

 

後部座席から悲鳴が聞こえた。

 

響子の右足を引っ張ろうとしたが、精一杯の力でアクセルを踏みつけている。

 

160キロ、170キロ、180キロ・・・・・・

 

180キロをだいぶ超えたところで、「キンコンキンコン」と速度リミッターが働く音が始まった。


加速はそこで止まった。

 

だがスピードは時速180キロ超のままだ。


すぐ先に大きな交差点がある。

 

赤信号だ。

 

響子はブレーキを踏む気配がない!

 

交差点に時速180キロで突っ込む気か!

 

このまま突っ込むよりマシだ!

 

ぼくはオートマのレバーを「」から「」に動かした!

 

急に後輪をロックされた車は、ゆるやかに左へ傾いていった。


後輪が右に滑って行ったのだ。


車が左向きになると同時に、前輪も滑った。


車は左へスピンし始めた。

 

その動きがゆっくりに感じたのは、死を覚悟したからだろうか。

 

外の景色がぐるぐる回り始めた。


もうどっちに進んでいるのかわからない。


景色が左から右へ流れていく。


何回転したかわからない。

 

横目で響子をみると、やはり固まった表情でハンドルを握ったまま、アクセルを踏みつけている。

 

後部座席の佳恵は悲鳴を上げ続けていたが、見る余裕なんてない。


そして車は横向きになったまま、交差点に突っ込んだ。

 

助手席側、つまりぼくの乗っている側から赤信号を無視して交差点に突っ込んだ。


交差点を横切るタクシーに接触し、その衝撃でぼくの頭は横の助手席側のガラスを割り、首もろとも頭がが車外に飛び出だした。

 

シートベルトは横向きの衝撃には反応しなかった。

 

すぐ、急ブレーキとクラクションを鳴らしっぱなしの大型トラックが突っ込んできた。


正面衝突はなんとか避けてくれたが、タクシー、そしてうちの車を舐めるようにかすっていった。

 

かすっていくついでに、助手席の窓から飛び出たぼくの頭を、首から根こそぎ刈っていった。

 

ぼくは頭だけとなり、トラックの前方を飛んでいった。

 

右目にタクシーと、今まで自分が乗っていた車が視界に入った。

 

頭だけのぼくに、少しだけ考える酸素があった。

 

「ああ、響子にバレたんだな、すまなかった。


 悪かったな、佳恵。


 もっと早く、はっきりと決断しておけば・・・・・・」

 

頭が地面で跳ねた瞬間、ぼくの意識と思考は消滅した。

現場検証

警察は長さ120メートルを超えるスリップ痕を調べ、速度を割り出した。

 

制御困難運転致死傷罪で松本響子は起訴されたが、事情を考慮され、なんとか執行猶予となる。

 

会社は懲戒免職となった。

 

実家に戻り出産した。

 

息子の名前は「純一」と名付けた。

 


首を刈られた徳井を目の前で見てしまった木村佳恵は、PTSDつまり心的外傷後ストレス障害とパニック障害を発症し、車に乗るのはおろか、外出すらままならなくなってしまった。

 

会社を休職して引きこもりがちになり、会社の指示でカウンセリングを何度も受けた。

 

数か月後、ようやく外出できるようになった。

 

そして病院で出産した。

◇響子

免許取り消しで免許がない。

 

当たり前だけど。

 

でももう運転したくもない。

自転車で十分。

 

保育園に自転車で純一を送り届ける毎日をすごした。

 

最近、なんだか純一の機嫌がいい、よくはしゃぐ。

ちょっと聞いてみよう。

「どうしたの?何かいいことがあったの?」

 

「うん。えっとねー、好きな子ができたの」

 

「へえー、誰ちゃん?」

 

「うん、えっとねー。

 ヨシエちゃんとキョウコちゃん。

 あ、母ちゃんの名前といっしょだねーっ!」

 

 

 

(了) 

 

 

 

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